扉を開けて、飛び込んできたのはまぶしさだった。
夕焼けで染められた部屋はまるで知ってる場所ではなかったし、
ガラスを透いて通ってきた光の煌きがまたその感覚に装飾を加えた。
その奥で佇む彼女もまた自分の知らない人のようだった。
いざ向き合ってみると、さっきまでの美しい決心は全部解けて
沈殿したままの重苦しさが胸を苦しめる。
沈んでいく夕日といもに視線は落ちて、遂に夜が来た。
心配そうに何事かをたずねてくる声がまた重く、沈み、積もり、
終ぞ心内ごとはじけてしまいそうになるのを必死で耐えながら、
一番奥にあるこの原因を取り除こうと
積もった、泥のような心の醜さを掻き分けながら
ぽつりぽつりと言葉を吐くのが精一杯だった。
泥で汚してしまう気がして堰を切ったようには話せず、
しかしそれでは洗われず。満たされなさがまた重たい。
時は刻々と、言葉はぽつぽつと、二人は粛々と、
やがては空気も夜に飲まれて、気づけば辺りも幻想から現実に戻っていた。
決意も、望んだ未来も結局は幻想で、
いまここに残る真実は、自分のことすらましもに告げられない矮小な自分と、
それでもなおやさしく、根気強く、心から心配をかけてくる彼女。
しかし、目の前の彼女は本物なのだろうか。
己の美しいものがすべて幻想だったように、
目の前の彼女の美しさも、ともすれば偽りなのかもしれない。
そっとやさしく揺すられて、暗闇から、朱色へ。
どうやら眠っていたらしい。
彼女の優しい声につられて、外を見る。
朝日がビル郡を越えて頭をみせていた。
ぽつりとでた感想が、自分でも恥ずかしい。
「本当に、綺麗な景色ね。心が洗われるみたいね」
いわれて、ハッとする。もう一度景色を見つめる。
今なら、彼女を汚さずにすべて話せる気がする。